D365のデータ移行方法とその課題

はじめに

Microsoft Dynamics 365 Finance & Operations(D365 F&O)のデータ移行は、SAPなどの他のERPシステムと異なり、コンフィグレーションやマスターの移行方法が統一されたパッケージではなく、それぞれの適正に応じた方法で手動作業を行う必要があります。また、アドオンパッケージの移送も個別ではなく、まとめて移送する必要があるため、正確な環境移送を行うのが難しいという課題があります。本記事では、D365のデータ移行の特徴と課題を解説します。

1. D365のデータ移行の概要

D365では、データ移行は主に以下の3つのカテゴリに分けられます。

  1. コンフィグレーション(設定データ)の移行
  2. マスターデータの移行
  3. アドオン(カスタマイズ)の移行

それぞれのデータ移行方法には特有の制約があり、SAPのようにコンフィグレーションやカスタマイズをパッケージ化して一括移送することができません。そのため、各種データの移行は慎重に計画する必要があります。

2. コンフィグレーション(設定データ)の移行

D365では、各種設定データ(コンフィグ)は環境間で直接移送する手段がなく、設定ごとに適切な方法で手動移行を行う必要があります。

主な移行方法

  • Data Management Framework(DMF)を使用
    • D365にはデータエンティティを活用したデータ管理機能(DMF)があり、一部の設定データはデータパッケージとしてエクスポート・インポートが可能。
  • Excelや手動入力
    • DMFを使用できない設定については、Excelテンプレートを活用するか、直接システムに手動で入力。
  • LCS(Lifecycle Services)のConfiguration Migration Tool
    • 限られたコンフィグデータの移行に利用可能だが、すべての設定データを移送できるわけではない。

課題

  • SAPのように設定を一括でパッケージ化して移送する仕組みがないため、各設定の適正に応じた個別対応が必要。
  • 設定の一貫性を維持するための管理が難しく、環境ごとに設定がズレるリスクがある。

3. マスターデータの移行

D365では、マスターデータ(品目、取引先、会計コードなど)の移行にはDMFを活用します。

主な移行方法

  • Data Management Framework(DMF)
    • データエンティティを活用して、マスターデータをCSVやExcelファイル経由で移行可能。
    • 複数のエンティティを関連付けたデータパッケージを作成し、依存関係を考慮してデータのインポート順序を管理。
  • Power AutomateやAzure Data Factoryの活用
    • 外部システムとのデータ連携を効率化するために活用。

課題

  • DMFを使用する際、データエンティティごとの制約があり、期待通りに移行できない場合がある。
  • 移行順序の管理が必要であり、複数回に分けた移行計画が求められる。
  • LEGAL ENTITYで共通のID(例:Party IDやLocation ID)を利用してしまうと、意図せず他のLEGAL ENTITYのデータを更新してしまうリスクがあるため、特に注意が必要。

4. アドオン(カスタマイズ)の移行

D365では、アドオンの移行に関しても独自の制約があります。

主な移行方法

  • Deployable Packageの使用
    • Visual Studioで開発されたカスタマイズ(X++ コード)をビルドし、Deployable PackageとしてLCS経由で本番環境へ適用。
    • 一度に複数のアドオンをまとめて移行する必要があり、個別適用ができない。

課題

  • SAPのように個別のアドオン単位で移送ができず、すべてのカスタマイズをまとめて適用する必要があるため、変更の影響範囲を最小限に抑えるのが難しい。
  • 環境ごとの差分管理が複雑になりやすい。

5. D365のデータ移行を成功させるためのポイント

D365のデータ移行を円滑に進めるためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

1. 移行計画を事前に策定

  • コンフィグ、マスター、アドオンそれぞれの移行方法を明確に定義。
  • DMFを活用するか、手動で移行するかを整理。

2. データ移行の順序管理

  • マスターデータの依存関係を考慮し、適切な順番でインポート。
  • 事前にテスト環境でリハーサルを実施。

3. 環境ごとの設定差異の管理

  • 環境ごとに設定がズレないよう、設定一覧をドキュメント化。
  • 変更履歴を適切に管理。

4. アドオン移行時の影響範囲の把握

  • 一括適用が必要なため、影響範囲を事前に検証し、リスクを最小化。

6. まとめ

D365のデータ移行は、SAPのようにパッケージ化された一括移送ができないため、

  • コンフィグは個別に手動で移行
  • マスターはDMFを活用して移行
  • アドオンはDeployable Packageとしてまとめて移行

という特性を理解し、適切な移行計画を立てることが重要です。

D365のデータ移行を成功させるためには、事前の計画、移行プロセスの明確化、テスト環境での検証が不可欠です。本記事の内容を参考に、移行の課題をクリアし、スムーズなシステム導入を実現しましょう。

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